2025.01.26
片岡千恵蔵主演 『悪魔が来りて笛を吹く』(1954年公開) 復刻披露上映会を実施


2025年1月26日(日)、丸の内TOEIにて、戦前から戦後にかけて活躍した時代劇スター・片岡千恵蔵主演『悪魔が来りて笛を吹く』(1954年公開)復刻披露上映会を実施いたしました。
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本作の原版は長らくロストフィルムとなっていましたが、2023年に二松学舎大学文学部国文学科教授の山口直孝氏が研究の中で本作の16㎜フィルムを発見され、2024年に寄贈という形で約70年振りに東映へ戻ってきました。16mmフィルムが東映に寄贈されたというニュースが出るとSNSでは「見たい」「配信して欲しい」「デジタル化を期待」「金田一の大ファン」「洋服を着た千恵蔵」「激アツ」などの声で盛り上がり、注目の高さが窺えました。
しかし、寄贈いただいた16㎜フィルムは長い年月の間にビネガーシンドロームと呼ばれる劣化が進んでおり、ワカメのような歪み、また欠損、傷も多く、一刻も早いデジタル化が必要な状態にありました。
そこで東映は、東映グループ会社の東映ラボ・テック株式会社による熟練の手作業と最新修復技術を駆使し、デジタルデータとして映像と音声を共に蘇らせる復刻プロジェクトを発足させました。このプロジェクトは多くのファンの方々と共に実現させるべくクラウドファンディングという形で実施し、2024年6月3日に募集を開始、542人のパートナーが集まり6,325,707円という金額を達成して、2024年7月3日に募集を終了しました。
そしてこの度、1950年代の名作映画がついにデジタル復元され、クラウドファンディングのパートナーの方への返礼品として2025年1月26日に復刻披露上映会を実施いたしました。
上映後に横溝正史の小説や片岡千恵蔵の映画に関するトークセッションも開催いたしました。ステージには本作のフィルムの寄贈者であり、二松学舎大学教授山口直孝(ただよし)氏(以下写真右)と東映太秦映画村を運営している株式会社東映京都スタジオの元社長で、立命館大学映像学部教授でもある山口記弘氏(以下写真左)が登壇しました。
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山口直孝氏は横溝正史研究の第一人者で日本の近代・現代小説について知見が深く、また山口記弘氏は東映に長年在籍し、時代劇をはじめとする日本の映像産業史に精通しております。
そんな「ダブル山口教授」によるトークセッションでは「修復状態、巧妙なストーリー展開、トリックの妙や文学評価、当時の時代背景や撮影にまつわる話、片岡千恵蔵の人柄や演技の幅広さ、横溝小説が映画化された経緯や撮影環境」等が語られ、本作上映会を更に盛り上げてくれました。
また、丸の内TOEIロビーには作品にまつわる様々な展示を行いました。
【展示内容】
・復刻ポスター8点(『悪魔が来りて笛を吹く』
『三本指の男』『獄門島』『獄門島解明篇』
『犬神家の謎』『八ツ墓村』『三つ首塔』
『悪魔の手毬唄』)
・完成台本(復刻)、制作台本(原本)
・プレスシート
上記の他にもスチールやPVの放映などで展示を彩りました。
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また、この上映会に際しまして、『悪魔が来りて笛を吹く』(1954年公開)の原作者・横溝正史のご息女である野本瑠美氏と、主演・片岡千恵蔵のご子息である東映株式会社植木義晴取締役からコメントをいただきました。
野本瑠美氏コメント
このたび、多くの方々のご協力と技術の結晶によって、かつての映像が修復されたこと、お慶び申し上げます。たまたま原作が父の作品であったということで、この場に参加できることを大変仕合わせに思っています。ありがとうございます。
作品の映画化について、父はトリックと解決が守られていれば、どのような表現であっても監督さんにお任せしますと申しておりました。映画には小説と異なるよさがあるというのが、父の考え方のようでした。
父の仕事に対する姿勢と言いますと、寝ても覚めても没入没頭というのでしょうか、触れればビリリ電気が走ランカという感じで、〆切が近くなれば髪振り乱して帯は解ける、羽織が脱げても歩き回るというありさま。けれど一旦想がまとまりペンを持ったら、家族はバンザーイとばかり声を上げて喋ることができました!
トリックにしろストーリーにしろすべて読者と対決姿勢で、どうだ解けたか、面白いだろうという創作態度だったように思います。また連載小説でしたから、次の号へ興味をそそるテクニックも工夫を凝らして読者を引っ張っていたように思います。
取材も調査もしませんから、目にするもの耳にするものすべてを使って、父自身の知識と想像力によって構築していく姿は、常に火を噴いているようでした。
映画の金田一耕助の扮装については、世相が現われていると楽しんでいました。
市川崑氏の作品では耕助役の石坂浩二氏が美男でインテリっぽくて、扮装は作品の再現であってもといぶかしく思っていたらしいのですが、撮影を見学した折にボヤが発生し、石坂氏が駆けつけようとしてバケツに躓いた様子を見て、これはイケるとにんまりしたと聞いています。
『悪魔が来りて笛を吹く』、この作品はまさに想を得て組み立てていくほとんどすべてを家族みんなが知っておりますので、とても親近感のある作品です。また書き上げて間もなくの映画化作品に今日触れることは、とても不思議な巡り合わせと思っております。
植木義晴氏(東映取締役)コメント
今回このような機会を頂き初めて観ることが出来て嬉しく思います。改めて、今回フィルムを見つけて頂いたこと、そして多くの方に大スクリーンで観ていただくことが出来たこと、また、クラウドファンディングでご支援頂いたことを、片岡千恵蔵の息子として心より感謝申し上げます。よく家族で父親の映画を観ましたが、私にとっては俳優・片岡千恵蔵ではなく父親なので「失敗しないかなぁ」と心配になり、なかなか感情移入できなかったことを思い出しました。
本作は70年も前の作品と言う事でクラウドファンディングのパートナーの方は私よりも年配の方が多いのかなと思っていました。しかし実際に本日の上映会で来場者を拝見したところ、多くの方が私よりも若く、そして国内だけでなく海外の方もいらっしゃり、パートナーとして協力していただいているという事を知りました。
過去の映像資産を現代に蘇らせる取り組みは、当時を知らない今の世代、そして海を越えた海外の人たちへも東映の映像資産、そして日本映画の魅力を知っていただくことが出来る素晴らしい取り組みだと思います。
私は日本航空(株)でパイロット、そして社長として勤めてきた中で、日本の素晴らしさを海外の方に見つけていただける事を実感しています。日本の過去の映像資産には素晴らしい作品が数多くあります。それらを現代の技術で未来へ伝えることで日本国内のみならず、海外でも面白さを知ってもらう事に繋がってほしいと、東映の取締役として願います。
『悪魔が来りて笛を吹く』(1954年公開)作品情報
1951年に発表された横溝正史原作の同名小説を、片岡千恵蔵が金田一耕助を演じ東映が映画化、1954年(昭和29年)に劇場公開されました。片岡千恵蔵の金田一耕助シリーズは7作品製作されており、本作は第4作目にあたります。
「悪魔が来りて笛を吹く」は横溝正史作品のなかでも指折りの名作と誉れ高く、何度も映像化されてきており、映画はこれまでに2作品作られ、1作目が片岡千恵蔵、2作目が西田敏行の主演で、いずれも東映が製作配給しています。
本作は横溝正史の描く、くたびれたはかま姿の金田一とは異なり、片岡千恵蔵が華麗なスーツ姿でガンアクションも見せる趣の変わった作品です。
【監督】 松田定次
【脚本】 比佐芳武
【原作】 横溝正史
【出演】 片岡千恵蔵 三浦光子 千原しのぶ
【音楽】 深井史郎
【撮影】 川崎新太郎
【編集】 宮本信太郎
【製作・配給】東映
【公開】 1954年4月27日
【上映時間】 84分