ケミカルでは出来なかった新しい世代の「フィルム」に向けて
阪本
こういった、アナログへのこだわりが、ボディブローとして効いて、映画が受け入れられてくれればいいと思いますね。僕の持論なんですが、フィルムというのは「記憶色」なんですよ。昔は2年に一回くらい、イーストマンの人間が飛行機で日本にやってきたんですよ。そしてコマーシャル畑、映画畑、いろいろな業界のキャメラマンを呼んで、次に出るフィルムの色について、どうですかって聞くんですよ。時代によって、いろんな意見が出る、そういうことを世界中から聞きまくって、彼らはフィルムを作っていた。だから人間の感性でどういう色が受け入れられるかをテーマに、フィルム会社は色を作っていたんですね。デジタルというのは、XYZという明度・色素・彩度で決まった色が出るようになっていて、これはその色が映っているだけで、決して映画的感性は出ないんです。
塩田
調子というのはそれぞれの作品によって違うと思うんですが、フィルムで多くの人々に支持された調子というのはDCPになったとしても続いていくと思います。
阪本
やっぱり僕が一番ショックなのは、一月に、イーストマン・コダックが経営破綻したことですね。学生時代から憧れのフィルムだった、いわば大巨星が、この作品がDCPに切り替わるよといわれたこの年に、流れ星になってしまったということで、僕の中でこの映画が、人生の中で別の意味で思い出の作品になってしまった。これから何年かはフィルムは残るでしょうが、ケミカルフィルムはもうなくなってしまう。その時期に、アナログ感を一生懸命デジタルで再現しようとみんなでやっていた、というのが印象的なんですね。
今の若い人はフィルムなんてのは理論では知っているけど、体質として受け入れていない。だけど、世界的に見ると、フィルムのテイストを大切にしている人は多いんですよ。日本だけがちょっと特殊なんですね。だから、日本から世界に通じるキャメラマンがいなくなるのが困るので、今、一生懸命やっているわけです。たとえば東映デジタルラボにノウハウがあって、若い人が「フィルムをやりたいんです」とやってきた時に、とりあえずフィルムらしくなるというワークフローを作っておけば(笑)ああ、これがフィルムかって、そのキャメラマンがもっともっとやってくれれば、フィルムが残っていくじゃないですか。
まだフィルムとデジタルはイコールになってないけど、例えば今度、SONYがBEYOND HDというカメラ製品群を出す。僕はBEYOND FILMって感じているんですけど、それは可視光域という人間が見れる色の範疇というのがあるんですね。フィルムというのは80%くらい撮れるんですが、そのカメラは85%~90%くらい撮れるんですよ。フィルムは化学だからそれ以上は伸びないけど、デジタルならいくらでも伸びるんですよ。そこできちんとしたフィルム的色域の移動をしてあげれば、フィルムの特性も残っていくし、もっと豊かな表現が出来てくる、ケミカルでは出来なかった世代の「フィルム」になっていくんじゃないか。僕もそこまでは、現役であと一本くらいは撮りたいなと思っているんです(笑)
塩田
デジタルで撮って、フィルム的なDCPまで作れるのはラボの培ってきた技術が必要だと思っています。それを生かし新しい技術が次々に誕生してきますから、どのように使って表現を高められるかというのを追求していきたいですね。
阪本
ここにはフィルムが分かっている人がいる、それをデジタルでどうするかが分かっている人がいる。それを希少価値にしていって欲しいですね。フィルムの質感のDCPが出来るところは限られているんですから。
ありがとうございました
映画『はやぶさ 遥かなる帰還』 2012年2月11日(土)公開 | |
『はやぶさ』に全てを賭けた日本の科学者・技術者たちの魂の挑戦。JAXA協力のもと<完全映画化> 【CAST/STAFF】 監督:瀧本智行 原作:山根一眞「小惑星探査機 はやぶさの大冒険」(マガジンハウス刊) 脚本:西岡琢也 協力:宇宙航空研究開発機構(JAXA) 【公式サイト】 映画『はやぶさ 遥かなる帰還』オフィシャルサイト ©2012「はやぶさ 遥かなる帰還」製作委員会 |