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マイスターvol.20 映像マイスター:映画『はやぶさ 遥かなる帰還』完成記念インタビュー 「阪本善尚(撮影監督) & 野口光一(VFXスーパーバイザー)」

デジタルのテクノロジーを使用してアナログ画調を作る

-今回、上映される劇場のうちフィルム上映とDCP上映が、半々ということですが 

阪本
僕は『突入せよ! あさま山荘事件(2002)』など、凄く早い段階からデジタル撮影を始めているんですが、僕にとってはイマジネーションはフィルム的思考しかないんですよ。ただし、フィルムそのものは無くなってしまうなと10年前に思っただけの話。フィルムが無くなってしまうと、僕は映画を引退しないといけないなと思う怖さで、デジタルでフィルムが出来ないか、と考えたのが僕のトライだったんです。ケミカルで作っているものが、デジタルでできないはずはないって、その実験をずうっとやっていたんです。ですから、今回もデジタルでやっているんですが、デジタルは道具であって、完全にイマジネーションでは、ネガはKODAKのVISIONS3 5219で撮影して、VISIONってプリントに焼いた画が、DCPにどう映るかというトライしかなかった。 

フィルムというのは、映画にとって絶対必要なんですよ。フィルムってアナログなんですよ。デジタルのデータはどれだけ細かくなっても階段状になっている、フィルムは滑らかな階調になっていて、これが人間の感性に入りやすいと僕は信じてる。だからデジタルのテクノロジーを使っても、アナログにしないといけないというのが今回の大テーマだった。そのために東映デジタルラボ始めみなさんには相当苦労してもらったし、ベースライトという粒子のマネジメントに優れたグレーディングの機械を活用したことで出来上がったんですね。

つまり、アナログの画調にするのに、粒子を加えたんですね。僕らの使っている10bitのデジタルカメラには、ひと絞りの露光域に80個の階段があるんです。ところが粒子を入れると何が起こるかというと、ディザリングという効果があって、昔カラー印刷は点で印刷されていたことがあったでしょ?人間は間の色を階調として感じちゃうんですね。それを今回デジタルに入れたんですね。そうすると、完全にフィルムと同じにはならないんですが、DCPのほうは黒のディテールが戻ってくるんですね。白をふわっと飛ばすところも、粒子を入れることでふわっと飛ぶ。階調の間が入るから、シャープだけど柔らかく見える。 

フィルムというのは、3000:1、から2500:1のコントラストの比を持っているんですが、DLPは実際は1500:1くらいのコントラスト比しか持ってないので、黒の再現度などでは限界があるんですよ。この映画は黒を狙っているのに、黒がグレーに見えるようじゃ困るんで、あえて凄い明るいエリアを撮影しているんですよ。画面に明るい部分があると、人間の目はちょっと瞳孔が閉まるんですね。そうすると、感覚として黒が黒っぽく見える。そうやって、DCPとフィルムの仕上げを同時にやってたんですが、まだフィルムは暗部の階調再現が素晴らしくてね。

専門的に言えば、色域っていう表現する色の範囲がフィルムとDCPでは違うんで、東映デジタルラボの仕上げ部門は大変だったでしょうね。相当NG出したし、予算以上のお金も使わせたし(笑)だけどこれからはDCPだけになるでしょうから、東映デジタルラボでも機器を入れ替えたりするそうですよ。これほど早く、DCPが普及するとは思ってなかったし、本格的にDCPベースでグレーディングするシステムは、日本中、まだ入っていないんですね。

塩田
それも、阪本さんのように“フィルム調子のDCP”というのが、いままでさほどなかったと思うんです。そういう意味で、この作品は大きなエポックだと思うんですよ。HDで撮ってDCPというのは数多くあったんですが、こういうラティチュードを持ったものを押し込んで撮影し、それをフィルムレコーディング用にグレーディングし、DCPにもそのラチチュードを生かしたまま作成したのは今まであまり例がありませんでした。

阪本
野口さんとのコンビネーションが素晴らしいのも、『男たちの大和/YAMATO』の時もそうだったんだけど、実写で撮った、アナログの光をどういうふうにうまくデジタルの世界で味付けしていくかというところを突き詰めていけるから。今回も、実物大のモデルをでっかいクレーン持ってきて、一週間くらいかけて撮影しましたね。実際には使わなかったけど(笑)

野口
2カット使いましたよ(笑)

阪本
もちろん、実写では宇宙みたいな画にはならないですが、ワンライトが当っているはやぶさの、表面を覆う金色のシートの皺の影のようなアナログ独特なものを、野口さんには拾ってもらって、それが質感のある、今までにないCGになったんじゃないかと思うんですね。

そうしたら、監督はもっとアナログに拘る人だったんですね(笑)エンドロールのスライド、あそこにあんなに拘るとは思わなかった。普通なら写真素材を持ってきて、野口さん、アニメーションをお願い、って渡しそうなものじゃないですか。あれ、実際に幻灯機持ってきて撮影したんですよ。というのも、スライドがカチャンと入った時に、微妙に揺れるじゃないですか。あれを野口さんのところでやろうとすると、大変なんですよ。そこで実際に幻灯機でスクリーンに映した画を撮ることにした。

野口
撮っておいて、あとでエッヂをぼかしてと注文が来たんですが(笑)




【*7】ラティチュード
露光寛容度 これが広いほど、明部や暗部の再現度が高い



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