時代劇映画の聖地・太秦の撮影所で行われる育成ラボ 6
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撮影が終わって |

撮影所の“資産”とは何なのか。今年創立60周年を迎える東映に先立つこと四半世紀、1926年に「阪妻プロ太秦撮影所」として発足して以来、撮影所が“豊富な資金やインフラ”を以って映画を製作していた時期は、戦後の時代劇黄金期を除き、そう長くはない。戦前の衰退期、戦後時代劇ブームの終焉、テレビの台頭、そして映画人口の減少と、撮影所はいつも逆境の中での創意工夫を余儀なくされてきた場所だ。しかし「それでも映画で食っていくという決意(中島貞夫)」を持った人々が、この撮影所で集い、外部の異能・異才をも呼び込み巻き込んで、魅力に溢れた映画を作り続けてきた。それは常に、新しい価値観を一から創造する営みであったに違いない。
今回私が見聞きしたもの、それはとても小さな現場だった。しかしここで行われた、右も左も分からないような若者たちが、自分たちの力で新たな価値を作り上げていくその行為を、見守り、助け、成長させようとする石原や安藤、矢嶋らスタッフの姿勢に、私は撮影所の“資産”を見た気がする。
これまで60年に渡り東映を支えてきた撮影所。これからも開かれた場所として、多彩な人々を呼び込み、世界に向けて新たな魅力を発信続けていくだろう。
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ポストプロダクション/アフレコ |

撮影後、VOのアフレコが撮影所の【MAルーム】で行われる。かつてはフルオーケストラがここに入り、劇伴を画面を見ながら演奏・録音していたという巨大な空間は、映画の歴史を感じさせる雰囲気が漂っている。
メンバーはリラックスしたムードで、アフレコを進めた。
途中、松竹チームがクランクアップしたとの連絡が入った。終了予定時刻を大きく過ぎ、暗くなってからの照明効果を狙ったとのこと。石原さんの面目躍如な、幻想的な画面が撮れたという。
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殺陣講座 |
翌日、東映京都撮影所で、ラボ参加者を対象に『殺陣講座』が行われた。初めて手にする模造刀におっかなびっくりだった参加者たちに、殺陣師・中村健人らが実践的にレッスンを行う。伝統的な所作に加え、最近では作品によって中国式の動きなども取り入れているという殺陣に、始めはぎこちなかった参加者たちも、最後には可憐な?立ち回りを決められるように!

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終わりに |
今回のラボには、ドイツの独立プロデューサー、Max Frauenknechtがオブザーバとして立会っていた。国際的に活躍する彼の目から、ラボに参加したメンバーはどのように映っていたのだろうか。

『京都育成ラボ』のように、若い人々が集まって映画を撮影するというプロジェクトは、大変すばらしいと思います。
ドイツで同様なものがあるかと考えてみたが、思いつきません。ベルリン国際映画祭にはBerlinale Talent Campus (http://www.berlinale-talentcampus.de/campus/event/home)があるが、これはディスカッション中心のものです。
東映チームは、コミュニケーションの方法について少し足りない部分があったようです。一般に、撮影のための準備に十分時間をかけていれば、撮影それ自体にそれほど時間がかかることはありません。といっても、総じてどちらのチームもうまくいったのではないでしょうか。
東映・松竹の両チームの作品が、それぞれのカラーに別れていたのも面白いと思いました。日本のソードアクションはドイツではあまり見られないし、その意味で大変興味をそそるでしょう。松竹で撮られた作品は、ラブストーリーですから、テーマとして大変理解されやすい。ローカルなテーマというのもあるが、普遍性のある(国際性のある)テーマ選びが国際的に受け入れられる映画製作には重要だと考えます。
また、国際的に通用するFilmmakerになるためには、何事にもオープンあることが大切です。コミュニケーション能力は極めて重要です。またチームプレイができなければならないでしょう。言語能力は、たとえば日本語しかできないというのではやはり問題があります。ですから、このようなインターナショナルな制作体験ができる場所というのは、たいへん貴重なものなのではないでしょうか。
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高橋剣 東映京都撮影所 製作室長の話 |
今年はこのラボに加え『映像企画市』や『HISTORICA』を、すべて太秦の撮影所で行う、いわば【太秦まつり化】出来たことに、大変意義があったと思っています。撮影所としては、[海外から日本ロケをしたい、もしくはチャンバラを撮りたいお客様へのアピール]、[撮影所の若手へ刺激を与える]、[HISTORICAゲストたちとのネットワーク作り]を重要な課題と捉えており、ベルリン映画祭と提携を結んだのも、京都が直接世界に向き合うこと、ベルリンの千人規模のタレントキャンパスのネットワークに【ソードアクションならKYOTOだ!】ということを伝えたく思ってのことでした。
今回はベルリンとの提携もなく、初の単独開催で、募集が成功するかどうかは正念場でもありましたが、結果、昨年を大きく上回る23カ国60人がほぼ口コミだけで集まったことに、この【KYOTO】を舞台にした時代劇ラボが、世界レベルで浸透しつつあることを実感しています。次年度以降もこの取り組みが続けられるよう、これからもがんばっていきたいと思います。