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マイスターvol.17 ここから映画は生まれる:第三回 京都フィルムメーカーズラボ

時代劇映画の聖地・太秦の撮影所で行われる育成ラボ 5

正直、うまく回っていない現場だったのでないか。もう少し撮影所のスタッフが的確な助言をすれば、もっとストレスなく撮影できたのではないか。初日を終わって、そんな東映チームに持った感想を、監修として現場についていた矢嶋にぶつけてみた。



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「僕たちは、このプロジェクトで“メンバー全員が撮影に参加する”ことを重視しています。その上で、監督と助監督、撮影と撮影助手に、それぞれ言葉の違うメンバーを配置したことは“狙い”でした。経験が少ないタマキが、ただでさえ慣れない指示を出し、それが翻訳され全員に行き渡るまでには、当然時間がかかる。その間、撮影がストップすると、みんなイライラしてくるんですね。けれどもそれは、この作品に必要な要素なんです、絶対にです。なぜならそれは、言葉や背景の違う人間が理解しあうプロセスとして欠かせないものだからです。(矢嶋)」



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学ぼうとする者たちに、手をとり足をとり指導するのは簡単だ。だけれども、これから映画の世界で、さまざまな垣根を越えて活躍するために、コミュニケーションの難しさ、それを自分たちで乗り越える意思を、このプログラムを通じて感じ取り、持ち帰っていって欲しい。

そんな思いが、撮影所スタッフの、じっと見守る姿勢の根底に横たわっていた。学ぼうとする姿勢こそ、最高の師であることを、撮影所はその長い歴史に裏打ちされた感覚で信じている。



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「これから宿に帰ったメンバーたちは、きっと今日の撮影を振り返り、話し合いを持つんじゃないかと思います。明日、どうチームが動くのかが楽しみです。それにね」と矢嶋は振り返る。

「最後の室内シーン、時間も押してメンバーも疲れているなか、あと少し、あと少しと指の先まで演出していたタマキの粘り。案外、ああいう芯の強さがあるところ、彼、監督に向いているんじゃないかと思うんですよ」



東映チーム 2日目

雨の予報は外れ、晴れ渡る冬空。今日は一段と冷え込みがきつい。そんな極寒の朝のオープンセットで

「もう汗だくですわ!」

と一際陽気な声で動き回るのは、照明技師の鹿野だ。今日は屋内撮影、外部からのライティングで室内を照らすためのイントレが既に組まれたなかを、大きなライトを肩に担いでセッティングを進めている。

もうひとりの撮影所スタッフ、録音の近藤は今回がラボ初参加。

「録音技師にとって大切なことに、監督や周りの声を聞きながら、現場が何を作ろうとしているか把握することがあります。僕は英語が不得手なので、今回はスタッフのそれができない。声を拾うことの大切さを知っているからこそ、この状況は自分にとって難しいと思う」



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その近藤に頻繁に声をかけ、準備を進めていくのは、昨日も現場で目配りの効いていたクロエだ。彼女だけではなく、今日は全てのメンバーが積極的に動いている。前日とは一新したチームの雰囲気。

「宿舎で松竹チームの撮りあげた素晴らしい画を見て、チームに火がつきました」シナリオを手がけたサカハラが、昨夜のミーティングの模様を語ってくれた。

「負けないぞ、という雰囲気になりました。みんながタマキの言っていることを飲み込んでひとつになろうと決めたんです」

各々の意見は、助監督のクロエを介して伝えるなど、コミュニケーションのルールが自然発生的に決まったという。まさに矢嶋の言う「コミュニケーションの難しさを、自分たちで乗り越える」ことが行われたのだ。

チームの連係プレイに、その成果が現れはじめた。狭い屋内、取り残した多くのカット、そして隣のセットでは『水戸黄門』の撮影も行われているという、昨日に増して難しく緊張を強いられる現場。どんな芝居をつけるのか?アングルは?監督には即断即決が求められる。

「今日は自分の英語力不足で、撮影プランをみんなに伝えることが出来ず、現場にフラストレーションが起こるし、どうしよかと思っていました。でも宿舎に帰ってからメンバーが、監督なんだから申し訳なさそうにするなと、言われました。こんな僕を支えてくれるメンバーに応えられるように、明日は明確なプランを固めて、撮影に臨みたいです」



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昨夜こんなことを言っていたタマキは、自分の意図を言葉にして伝えられるよう、他のメンバーが休んだ後も準備をしていたようだ。キャメラの後ろで、タマキがキャメラのイエップに伝えている。

「僕がここで一番見せたいのは、主役の顔です」

演出意図を明確にすることで、コミュニケーションの軸が出来、ディスカッションがスムーズに進みだす。更にクロエが各パートに声をかけることで、現場に一体感が生まれだす。

助監督(クロエ)「We are going for take, roll sound」→近藤さん「OK」
助監督(クロエ)「Roll camera」→カメラマン(イエック)「Spin」
助監督(クロエ)「mark it」→制作(イェヴァ)がシーンとテイクの書かれたボード出す
助監督(クロエ)「and action!」

その掛け声がリズムを生むかのように、テンポ良く撮影は進む。“理解しあうプロセス”が、ひとつのチームとして結実しつつある。

[東映のスタッフはみなプロフェッショナル揃いで、私たちの要望に忍耐強く対応してくれました。役者さんも、何度繰り返しを要求しても忍耐強く付き合ってくれた。間違いなく言えることは、東映スタッフと一緒に映画を作れたことは本当に有意義な経験(very positive experience)でした。(クロエ)]


[私が驚いたのは「アクションシーンで、舞い上がるほこりを作って」と頼んだら、すぐに出てくるようなこと(しかも黄粉を使うの!)。リトアニアでは予定にないものを入れるのに、書類を作って、それをミーティングで話し合って、という感じでものすごく時間がかかる。こんなに早く対応してくれるなんて、リトアニアではありえないこと。(東映チームを振り返って)今はまだ実感がないけど「チーム」として何を学んだのかいつかわかるときが来ると思う。(イエヴァ)]

気がつけば、最終シーンの撮影だ。メンバーは皆、監督とキャメラの後ろに集まり、緊張の面持ちでモニターを見つめる。侍同士の激しいぶつかり合い、ソルが撒く土ぼこりが舞い、怒号が響き渡る。キャメラが止まり、イェックに全員の視線が集まる・・・



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「Everybody, 超very good!」

一斉にメンバーから、スタッフから、キャスト陣から拍手が起こる。みんなでたどり着いた、クランクアップの瞬間だった。

[僕にとっては今回、初めてといっていい現場体験で、撮影所のみなさん、チームのみんな、本当によく我慢してくださったなあ、と・・・今の僕は、小さな袋にギュウギュウにものを詰め込んだ状態なんです。だから、何が収穫だったとか、一言で説明することができません。ただ一つだけはっきりしていることがあります。それは、撮影所のスタッフの方々に一生感謝するということです。そして、僕を育ててくれた京都に、いつかは作品をつくることで恩返ししていきたいです。(タマキ)]

 

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