警視庁捜査一課9係 season12
長年にわたって9係の係長として番組を支えていただいた渡瀬恒彦さんへ深く感謝し、心よりご冥福をお祈りいたします。
- 2017年4月12日~2017年6月7日放送
放送は終了しました。ご視聴ありがとうございました。
「加納倫太郎が早乙女静香を苦手な理由」
親愛なるターシャ・テューダー様
登紀子が加納倫太郎との出会いに運命を感じると言ってきた時には驚きを禁じえませんでした。私と違って、おしとやかで可愛い登紀子の周りには多弁でいわゆる軟派な学生が群れていましたが、加納倫太郎のようなタイプは皆無です。それにあの男はお見合いに二時間も遅刻して来て、来た早々に帰ろうとしました。目白駅で痴漢を捕まえていたからと言っても遅すぎます。静香姉さん、本当に強い男はああいう人のことを言うのよと登紀子は以前話していた大学の空手大会での対戦相手を眼力で腹痛を起こさせ、戦わずして退散させた倫太郎像をまた繰り返しました。ちなみにその対戦相手の慶応の医学部の学生は大学卒業後、法医学の分野で目覚ましい実績を上げ、世界的な法医学者として最近帰国されたそうです。しかし当然と言えば当然ですが静香の両親はこの結婚に乗り気ではありません。第一印象が悪すぎました。登紀子は私に説得して欲しいと言いました。静香姉さんが言えば納得すると。私は親の反対を押し切っての結婚だったから親の援助も一切もらわず、団地でつつましく暮らしている。刑事の給料はたかが知れてるでしょう、お嬢様育ちのあなたに刑事の妻が務まるか、ご両親はそれを心配してるのよ。静香姉さんには頼まないと登紀子は怒って帰って行きました。登紀子ちゃんは本気だなと聡介は言いました。私もそれはわかっているので北田さんに会いに行きました。
お見合いの話ならお断りなんでしょうと北田さんは言いました。いえ登紀子は倫太郎さんのことをもっと知りたいと言ってました。もちろん知りたいのは私です。加納のやつ二時間も遅刻する人間にお見合いをする資格はないと頭を下げて帰るつもりだったようですが、登紀子さんのたたずまいがいいので残ってしまったと言ってました。倫太郎さんはなぜ二時間も遅刻したんですか、痴漢を捕まえてから椿山荘に向かえば一時間も掛からないで着いたのでは。私もそれを問い質したら重い口をようやく開きました。痴漢は駅のホームを走って逃げて、お婆さんを突き飛ばしたんだそうです。加納は痴漢を捕まえて駅員に身柄を引き渡し、突き飛ばされたお婆さんを病院に連れて行ったんです。なんでお見合いの席でその事を言わなかったんですか。私もそれは言いましたと北田さんは言いました。しかし加納倫太郎という男は言い訳を一切しないのです。だからよく誤解されます。しかし信頼は出来ます。もし登紀子さんが加納の至らない面も理解してもらえるなら私も嬉しいです。それは男のエゴですと私は北田さんに言いました。登紀子はそんな包容力のある女性ではありません。あなたは若いのに人の見る目があると見受けしました。一度、加納と会ってもらえませんか。こうして私は加納倫太郎と会うことになったのです。
早乙女静香拝
To be continued CASE5 殺しの刺しゅう
ゲスト
富田一郎――白洲迅
古川和夫――河西健司
スタッフ
脚本:ハセベバクシンオー
監督:長谷川康
(文責・金丸哲也)