ドラマの満足度って、「安心感」と「意外性」という対極の2要素の中に宿るんじゃないかと思っています。
「安心感」は、主人公キャラの魅力とカッコイイ活躍による「よっ、待ってました!」っていう部分。黄門さまの印籠にあたるモノですね。そういう意味では、今回のエピソードはマリコも土門も基本に忠実、ファンの皆様の期待に応えた正統派の動きを見せます。まずマリコも土門も「どうも気になる…」。そうなると止まりませんから、藤倉刑事部長の命令に反して捜査と鑑定を続けました。その結果、藤倉が「事件性なし」で処理した住人焼死案件に「殺人の可能性」が出ましたね。ここまでの前回の展開は、ある種の安定の気持ちよさです。
ですが、ここから事態は意外性のある展開を見せていきます。
別の住人が転落死! 佐伯本部長は憤慨します。そして、山路の焼死が殺人事件で鱒乃の転落死と関連があるという鑑定が出たならば、藤倉は刑事部長を更迭されることになりました。
なんとーっ! 藤倉、更迭!? これは皆さんの想像を超えた部分ではないでしょうか? でも、藤倉は「俺がどうなろうと、一切気にせずに鑑定しろ」とブレない姿勢。さすが。かっこいいです。ここらへんは安心しますね(笑)さあ、今シーズンの背骨とも言える「マリコ&土門 VS 藤倉」の決着はどんな形でつくのでしょうか? 見逃せません!
次の見どころは、意外な元レギュラーの登場です。
「榊くん、土門さん、お久しぶり」登場したのは山崎一さん演じる宮前守。宮前、WHO? ここ最近からご覧下さっている方はご存知ないかもしれませんね。先日のクリスマススペシャルにも登場した小野武彦さん演じるマリコパパ(榊伊知郎)の前に科捜研所長を務めていたお方です。
え、前の所長までは予想できたけど、前の前の所長まで呼ぶッ?! ここはちょっと「想像を超えた部分」じゃないでしょうか(笑)宮前は今は兵庫県にある大型放射光施設「スプリング8」の研究員で、超微量成分の分析を行っています。科捜研の設備では、微量すぎて分からない成分分析が、スプリング8の力を借りれば出来るのです。なんか、すごいでしょ。すごいんです!(今回、実際の「スプリング8」様には色々とご協力いただきました。ありがとうございました)
他に科学捜査ネタとしては、おなじみ(?)のポリグラフ検査も登場します。いわゆる嘘発見器のアレです。でも……安心してて、いいのかなあ。フフフ(不敵な笑み)。油断せずに見てくださいね。
さて、今回一番の「意外性」は、もっと本質的な部分にあります。「真実を解明したその先にドラマがある」ということです。
ふだんよく見る、と言うか、我々がいつも作っている事件モノのドラマは「真実の解明」(※多くの場合は、犯人の判明)がクライマックスであり、その後はエピローグを残すのみです。ですが、今回はちょっと“挑戦”しました。真実を解明することの是非。その真実に対してどうするべきか。真実を解明した「その先」のドラマを描いています。だからでしょうか、今回の土門やマリコの台詞にはいつも以上に重みがあります。「彼らを路頭に迷わせても、真実を追求するのか?」「真実はもっと残酷なの」等々。
いつもとはちょっと違った見心地かもしれませんが、見応えある内容をお約束します!
ということで、最終回は、最高の見応えで「今まで『科捜研』見てきて良かった!」と思えるものをお送り致します。え? 見どころ紹介したら「意外性」が意外性じゃなくなっちゃうじゃないか、って? ギクッ! ……大丈夫です。その想像も超えてみせます。たぶん。きっと(笑)
満足度。その点はご安心ください。マリコ最後の鑑定をお見逃しなく!!
(文責・東映プロデューサー 塚田英明)
制作日誌
『科捜研の女』、いよいよ最終章に突入しました。息もつかせぬスリリングな展開、堪能していただけましたでしょうか。
15話のラスト、鱒乃が二階から落下し、マリコや土門たちが駆けつけるシーンの撮影は、ちらつく雪の中行われました。一番過酷な寒さを体感されたのはおそらく、冷たい地面に横たわる鱒乃役の長内美那子さんだったと思いますが、長内さんも他のキャストの皆さんも表情は真剣そのもの。こちらまで寒さを忘れるような、張り詰めた雰囲気の撮影となりました。もともとは鱒乃を発見したとき、マリコは脈や呼吸を診て声をかけるというシーンだったのですが、「鱒乃の体に馬乗りになり、心臓マッサージをする」という描写が付け加えられました。実はこれは沢口さんのアイディア。マリコならきっとこうする――沢口さんの身体に息づくマリコが、このシーンをより迫力のあるものにしてくれました。
また、ヒトが燃える…というあのショッキングな映像の裏には、スタッフたちの熱い夜がありました。
その夜行われていたのは、炎の映像の撮影。あのシーンは山路役の森下哲夫さんやスタントマンに実際に火をつけて撮影をしたわけではありません。手や脚に見立てた棒や人形を燃やした炎の映像を、実際の森下さんの手足や体の映像に合成したのです。合成の際に炎の映像を「切り出す」ためには、炎以外の部分(すなわち棒や人形)は黒色でなければなりませんでした。ですが人形の生地の色はベージュ。ということで、燃やす人形には黒いTシャツが着せられました。
人形にはあらかじめ、助監督の小川氏が、燃えやすいように灯油を霧吹きで吹きかけておきます。灯油を吹きかける場所や量によって炎の燃え上がるルートが決まってくるのですが、この塩梅というのがとても難しい。一気に燃え上がりすぎてしまったり、カメラに映らない部分ばかり燃えてしまったり、と撮影は難航しました。失敗のたびに消火が行われ、Tシャツはびしょ濡れになってしまうので、新しいTシャツに変えなければなりません。そのうちとうとう用意されていた黒いTシャツがなくなってしまいました。どうしよう、と現場がストップしたそのとき、ベテランスタッフの尾崎氏がセーターを脱ぎ始めました。
「しゃあないな、今日黒いTシャツ着てきたんや」
尾崎氏は自分のTシャツを、撮影で燃やすために提供しようとしたのです。
そんな尾崎氏の姿を見た助監督の小川氏はあわててそれを止めると、今度は自分で着ていた服を脱ぎ始めました。
「僕も黒いの着てきてるんで」
寒い2月、いったん半裸になった小川氏は自分の黒いTシャツを人形に着せました。
この光景に、何人かのスタッフも「俺も今日黒いヒートテックや」と名乗りをあげ、
「撮影が終わるころにはスタッフ全員裸になってるんちゃうか」
などと冗談も飛び交いました。
そんな中、助監督小川氏は自らの黒いTシャツに灯油を吹きかけ、着火。
渾身の灯油の吹きかけ方だったせいでしょうか、火はみごとに理想のルートで燃え上がり、無事OK。これ以上の黒Tシャツ提供者を出すことなく、長い夜は終わりました。
来週はついに、この「燃え上がる山路」の謎を含めたすべての謎が解明されます。土門が気にしていた「死んだ男の料理の手順」、マリコが気にかけた「窒息の所見」…すべての伏線がきれいに収束し、そして心をえぐるドラマが、想像をはるかに超えた真実が、あぶり出されていきます。
最終回、是非お見逃しなく。
(文責・東映プロデューサー 中尾亜由子)