司会) 今までは企画段階のお話を中心に伺っていたんですけれども、それを具体的に制作されていく中で、ご苦労などもあったと思います。一番伺いたいのは「平成仮面ライダー」を10年やっていく中で、どのようにスタッフ・チームが形成されてきたのでしょうか?
田﨑) CG合成チームは実は当初から変わらなくて、「日本映像クリエイティブ」という会社なんですけど、その中の人間が多少変わったり。
そこで今、主軸となってくれている"高橋君"という人は、最初違う会社で『クウガ』に参加していたんですけれども、会社を移籍してもその会社に来て、そのままライダーを続けてくれていたり。もう一人、"長部さん"という人も、前にそこにいた人ですが、長らく離れていて、僕がアメリカにいた頃に戻って、『クウガ』に参加したりとか。もちろん10年の中で、人が育ち下っ端だった人が、今は変身カットも任せられる、そういうことも全然あるんですよ。
また"佛田さん"の「特撮研究所」が、体質的に変わってきたところがあって、昔は主にミニチュア撮影の会社だったんですよね。それがCG含めて出来るようになった、てところかな。
司会) 前の作品では出来なかったけど、新しい作品でチャレンジしてみようとか、合成の時間自体が少なくなったから合成カットが増やせるようになったなどの変化はありますか?
田﨑) マシンパワーの進化もあり、ノウハウの蓄積もあって、時間は徐々に短縮出来たりしてますが、それがクオリティの面に上手く乗れば良いなぁって感じですね。
白倉) 確実に出来なかったことを出来るようには、年々なっていたりするんですよね、同じ人がやっていても。フィックスでしか出来なかったことが、手持ちで撮っても追随してくれるとか、どんどん発展をしている。
田﨑) まさに『ディケイド』でクウガ編なんかやると、この変身カットやらせて下さいって言う"高橋君"がいたりとか。リベンジだったりするわけですよね。昔出来なかったことを今できるから、今のクオリティで見せてみたいという人もいます。
司会) それも"平成仮面ライダー10周年プロジェクト"の一つの狙いだったのでしょうか?
白倉) そういうこともあるかもしれないですね。もう1回振り返りつつ、自分たちの技術を再確認しつつ、次へ進むっていうことは。当然、他の番組に影響もあるわけじゃないですか。
たとえば監督でいえば『セーラームーン』や『Sh15uya(シブヤフィフティーン)』があったりする中で、『セーラームーン』で初めて参加したスタッフが今は「ライダー」をやっていたり、あるいはライダーをやっていた人が別のをやったりとかの人的交流がある中で、切磋琢磨し合いながら、全体として進歩していけば良いですよね。
田﨑) 10年の歴史は栄光の歴史でも何でもなくて、失敗の繰り返しだったりもするわけです。だからこういうことをやったけど上手くいかなかったとか、あの当時出来なかったっていうのは、きっと人それぞれ全員にあるわけです。その積み重ねで、あの時出来なかったから今こうしたいという気持ちの上に成り立っている。似たようなポジションにいた時には、そばで歯痒い思いをしつつ、俺だったらこうするのというのもあるでしょうしね。
人が育ったという点では、確かに10年って人が育つスパンで、『クウガ』の頃、カチンコを叩いていた"柴崎"が、いまは『ディケイド』を監督しているというところは、それはもちろん柴崎だから10年で出来たわけですが、そう思うと10年ってそういう時間なんだという気はします。子供とかいると成長するから10年ってなんとなくわかるんだけど、あんまり変わってないんでね、自分の中では。
白倉) ははは(笑)
製作現場について
10年の歴史=失敗の歴史
新たな製作方式への飽くなき挑戦
司会) 最初はSDで・・・
白倉) 『クウガ』がHD撮影をダウンコンバートしてSD仕上げ。『アギト』から、『ブレイド』までが"デジべ"のスクイーズ収録。放送時に圧縮して放送するっていう。そうすると素材としては少し解像度があがるという考え方です。で、『響鬼』からHD撮影のHD仕上げ。この間、日本における"eシネマ"の歴史っていう年表風のレポートがあって、「東映ラボテック」の"木村さん"がまとめていたんだけど、『アギト』が、一応世界初の商業映画としてのHD映画とか。
白倉) 『クウガ』がHD撮影をダウンコンバートしてSD仕上げ。『アギト』から、『ブレイド』までが"デジべ"のスクイーズ収録。放送時に圧縮して放送するっていう。そうすると素材としては少し解像度があがるという考え方です。で、『響鬼』からHD撮影のHD仕上げ。この間、日本における"eシネマ"の歴史っていう年表風のレポートがあって、「東映ラボテック」の"木村さん"がまとめていたんだけど、『アギト』が、一応世界初の商業映画としてのHD映画とか。
『龍騎』も"バリカム"のビデオモードを使った商業映画としては初めてだったりとか、色々初めて尽くしのことやってきた歴史があったわけです。
司会) なぜそうなったんですかね。 白倉) 監督含めて新しもの好きだってこともあるんだけど。 田﨑) "バリカム"は飛びつきました。 白倉) やっていないからやってみたいというのも、当然ありつつ。色んな事情があるんです。"HD"といってもビデオだから、ビデオの照明クルーはそのまま使えたりと、テレビをやっている主力のスタッフがそのまま映画になっても移行出来たりするっていうことだったりとかの事情はありつつも。結局、先ほど仰られたとおり、失敗の繰り返しでもありますよね。仕上げ含めて本当にみんな初めてなんです。だから山のような失敗があって。『アギト』、『龍騎』は、もうそれぞれ死屍累々(笑)。 田﨑) 死屍累々でした(笑)。 白倉) 本当に公開できるのかっていう状況で 司会) そう考えるとリスキーな話ですよね。 2人) リスキーですね。 白倉) だって『アギト』の時なんか、編集室初めてです!ダビングルーム初めてです!みたいな。 司会) ある程度今まで通りやっていれば、計算を出せたりするわけじゃないですか。それを敢えてやられるということは、挑戦者スピリット的なものが皆さんの中であるんですか? 2人) そう書いて頂けると非常にありがたいです(笑)。 司会) なんとか魂みたいな(笑)デジタル撮影や進歩に関してはどう感じられていますか。 |
白倉) 俺が言うのもなんですけど、"デジタル3D上映"とかも含めてそうなんですけど、新しい技術というのは技術者側にはすごく面白いことなんです。でもそれはどこかで、スタッフを切っていくということでもある。いま"デジタル3D"と騒いでいる人たちは、撮影現場から出ている人たちじゃないんです。新しいビジネスとして、デジタルのほうから、映像とかにこれまでタッチしていなかった人たちが、ビジネスチャンスになるかもと思って来ている。彼らは映画とか撮影とかのノウハウを持っていない。一方で昔、赤青メガネの3Dをやってきた人たちがいるわけじゃないですか。ところがこのノウハウ、今のデジタル3Dは全く合流してないんですよね。だから、単に機材がフィルムからHDに替わりましたとか、その上映方式が変わりましたとかではない、"人の断絶"っていうのが発生してしまうんです。一面では世代交代という良い面もあるかもしれないけど、もう一面ではせっかく培ったものを全部ガラガラと壊して再構築していくというすごいロスがあったりする。 東映みたいな昔からの映画会社っていうのは、そういう面をきちんと見据えながら、培われた技術・ノウハウを、たとえ技術が新しくなったとしてもきちんと継承していかないともったいないと思っています。"ノンリニア・リニア"の話もそうですが、"ノンリニアシステム"を導入して儲かるのなら、"リニア"を担当していた技術者はどうなってしまうのっていう問題があって。"ノンリニアシステム"が入ったスタジオを新しく開きました。そこのオペレーターさんは、編集経験はないがコンピューターのマウスが握れますという人がいた場合、「じゃあ映画の編集が出来るんですか?」ということが起こってしまっていた。 だったら、その機材を使うんじゃなくて、編集センスがあってノウハウを持っている人が"リニア編集"でやった方が、お客さんは「あ、ノンリニアやっているんだすごい」というわけではないから、お客さんや現場にとってはそっちの方が良いじゃないかっていうことだってある。どっかで"弘法は筆を選ばず"みたいなところもあるわけだし、技術はあくまでツールなんだということ、人が扱うものなんだということを、特にこういう新しいもの好きはそこを見失わないようにしないと、すごい危険だなって思います。
田﨑) 実際、たとえば"シネアルタ"でやっている時は、撮影所の人間は、完全にビデオだったからよくわかんないって部分もあるんだけど、"バリカム"ていうのはそこに多少映画の人間のノウハウが入っているんで、用語とかが、シャッター開角度とか、そういう撮影所の人間がわかる部分が、一応導入されている。そして、ビデオ編集なんかも昔ジョグシャトルでやっていて、タイムコードを書いてという時代は、フィルムで育った人間にとってはちょっと敷居が高くて、感覚としてつかめないところがある。 "Avid"とかだと"タイムライン"とかの考え方は、ほぼフィルムと似ているところがあって、逆に入りやすかったりもする。インターフェースという点で、中途半端だと出来ないけど、進化を続けると昔のインターフェースに戻れるっていうところがあるのかなとは思いますね。アメリカで『パワーレンジャー』をやったときも"Avid"でやっていて、それは"ジョナサン"(注)が言っていたけれど、最初はコンピューターオペレーターを入れた、でも出来上がりがひどくて、頭を下げてベテラン編集マンに"Avid"を勉強してもらって、僕が行ったときには、すごいおじいちゃん二人がやっていて。息子が60歳とか言っていて・・・
白倉) 息子が60歳っていうのはすごいおじいちゃんです(笑)
田﨑) すごいおじいちゃん。でもやっぱり、素晴らしい、編集センスは。『刑事コロンボ』やっていましたという人なんで。編集って実は日本語でもすごい煩雑な作業で、こっちから慣れてない英語で指示するわけじゃないですか、そういうのもすっすっとわかるっていうのは、本当に編集マンだから。"Avid"は、操作に関しては心もとないとこがあって、時々わからなくて若いのを呼んで聞いていたりはしていたけど、そういうのって理想なのかなって気もしますね。 例えば、うちのシリーズでいうと"いのくまさん"(注)がHDを勉強し、『クウガ』を撮っていて、HDカメラに挑戦していくというところで、ノウハウ持っている人がそれだけ新しいものに挑戦していくわけだから、若い方も、もうちょっといのくまさんに寄っていくところがなきゃいけないんじゃないかなとは思うんですけど。そういう点では、今いのくまさんや"松村さん"(注)と一緒に仕事が出来る撮影の人たちは幸せだなぁと思います。
司会) 新しい技術を取り入れることで、技術交流が欠けてきているのですね。
田﨑) 機材は新しくなってるけど人は古くなっているってことですね。(笑)"佐々木禮子さん"(注)参入とか。
白倉) どんどんベテランを入れているところがあります。
田﨑) やはりそういう人たちは、"弘法筆を選ばず"の境地に達しているところがあって、ビデオだろうがフィルムだろうが怖くないっていうところがすごいなって思いますね。
白倉) 佐々木さんは今年で70歳になりますが、「合成とかCGとかやったことないわ」ってこの間は言っていらしたんですが、今は誰よりも完璧に把握しています。
田﨑) スタッフ掌握術みたいなのがすごい人なんで。たとえば合成屋さんのところに行って"高橋ちゃん"こうしてという話を持って行ったり、ここどうなのとか聞きに行ったりして、現場で1番の年長者なんですけど、若い人たちの中に垣根を作らない人なので見習わなくてはいけないと思います。
白倉) 新技術を通じて、ベテランから学ぶという不思議な現象が(笑)
司会) それが東京撮影所っぽいということなんですかね。
2人) そうですね。
田﨑) 人こそ財産だと思いますしね。
田﨑) 実際、たとえば"シネアルタ"でやっている時は、撮影所の人間は、完全にビデオだったからよくわかんないって部分もあるんだけど、"バリカム"ていうのはそこに多少映画の人間のノウハウが入っているんで、用語とかが、シャッター開角度とか、そういう撮影所の人間がわかる部分が、一応導入されている。そして、ビデオ編集なんかも昔ジョグシャトルでやっていて、タイムコードを書いてという時代は、フィルムで育った人間にとってはちょっと敷居が高くて、感覚としてつかめないところがある。 "Avid"とかだと"タイムライン"とかの考え方は、ほぼフィルムと似ているところがあって、逆に入りやすかったりもする。インターフェースという点で、中途半端だと出来ないけど、進化を続けると昔のインターフェースに戻れるっていうところがあるのかなとは思いますね。アメリカで『パワーレンジャー』をやったときも"Avid"でやっていて、それは"ジョナサン"(注)が言っていたけれど、最初はコンピューターオペレーターを入れた、でも出来上がりがひどくて、頭を下げてベテラン編集マンに"Avid"を勉強してもらって、僕が行ったときには、すごいおじいちゃん二人がやっていて。息子が60歳とか言っていて・・・
白倉) 息子が60歳っていうのはすごいおじいちゃんです(笑)
田﨑) すごいおじいちゃん。でもやっぱり、素晴らしい、編集センスは。『刑事コロンボ』やっていましたという人なんで。編集って実は日本語でもすごい煩雑な作業で、こっちから慣れてない英語で指示するわけじゃないですか、そういうのもすっすっとわかるっていうのは、本当に編集マンだから。"Avid"は、操作に関しては心もとないとこがあって、時々わからなくて若いのを呼んで聞いていたりはしていたけど、そういうのって理想なのかなって気もしますね。 例えば、うちのシリーズでいうと"いのくまさん"(注)がHDを勉強し、『クウガ』を撮っていて、HDカメラに挑戦していくというところで、ノウハウ持っている人がそれだけ新しいものに挑戦していくわけだから、若い方も、もうちょっといのくまさんに寄っていくところがなきゃいけないんじゃないかなとは思うんですけど。そういう点では、今いのくまさんや"松村さん"(注)と一緒に仕事が出来る撮影の人たちは幸せだなぁと思います。
司会) 新しい技術を取り入れることで、技術交流が欠けてきているのですね。
田﨑) 機材は新しくなってるけど人は古くなっているってことですね。(笑)"佐々木禮子さん"(注)参入とか。
白倉) どんどんベテランを入れているところがあります。
田﨑) やはりそういう人たちは、"弘法筆を選ばず"の境地に達しているところがあって、ビデオだろうがフィルムだろうが怖くないっていうところがすごいなって思いますね。
白倉) 佐々木さんは今年で70歳になりますが、「合成とかCGとかやったことないわ」ってこの間は言っていらしたんですが、今は誰よりも完璧に把握しています。
田﨑) スタッフ掌握術みたいなのがすごい人なんで。たとえば合成屋さんのところに行って"高橋ちゃん"こうしてという話を持って行ったり、ここどうなのとか聞きに行ったりして、現場で1番の年長者なんですけど、若い人たちの中に垣根を作らない人なので見習わなくてはいけないと思います。
白倉) 新技術を通じて、ベテランから学ぶという不思議な現象が(笑)
司会) それが東京撮影所っぽいということなんですかね。
2人) そうですね。
田﨑) 人こそ財産だと思いますしね。
(注):田崎監督より説明
ジョナサン: |
Jonathan
Tzachor。Power Rangersシリーズのプロデューサー。この人の招聘でタサキは渡米致しました。 |
いのくまさん: |
いのくままさおカメラマン。東映の戦隊シリーズを長年担当された後、『クウガ』以降、平成仮面ライダーシリーズに参加。東映の子供番組を支え続けたベテランカメラマン |
松村さん: |
松村文雄カメラマン。『アギト』以降参加され、パイロット作品や劇場版など重要なエピソードを担当。やはり長年に渡って子供番組を支え続ける名カメラマン。 |
佐々木禮子さん: |
スクリプター。数々の作品を担当された大ベテラン。平成仮面ライダーシリーズでは「たかいわれいこ」という平仮名で表記。 |
(C)2009 石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映