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映画マイスター 映画『君が踊る、夏』完成記念「香月秀之監督~映画への熱き思い~」

撮影現場について


撮影現場について
谷本) 今回の撮影で苦労したことは?

香月) やはり“踊り”のシーンです。周りの子(役者)が踊れないかもという心配もあって、「踊れない子には台詞をあげない」と言った時もありました。 脅しですけどね(笑)。

谷本) 劇中に登場する昔の同級生の方々ですか?

香月) そう、台詞があったでしょう。30人ぐらいの役者が台詞を言いたいからがんばって踊った。踊りたいよりも演じたい人たちの集まりですから。

谷本) では最初は全然踊れなかったんですね。

香月) ほとんどの役者がね。どうやって彼女らを本気にさせるかを考えてました。助監督と作戦を練って「あいつらを台詞で釣るか」ということになって、「じゃあ、踊りのうまいやつには台詞を考えよう」と言ったら、みんな必死で踊りを練習しましたよ。

樋口) 「よさこい」はチームによっていろいろな踊りがあると聞きました。ラストの踊りは、まさにオリジナルでかつ本物の踊りということが伝わってきました。

香月) おそらくあの最後の踊りがよさこい祭りに出たら、グランプリを取ると思いますよ。映画のメインタイトルが出る昼間の踊りは、以前にあった踊り。結局出演者は2つの踊りを覚えなくてはならず大変だったと思います。

樋口) 映画の内容が最初のタイトルから伝わってきて、このシーンは好きです。それと藤原竜也さんが「被写体に愛がある」といった写真。あの写真を撮る前後では、新平の心情が重要な位置付けがされていたように感じました。

香月) あの時カチッと画が止まるじゃないですか。あの時何だろうなと一瞬思う。それがラストシーンできいてくる。その時の新平の言葉「愛があるきね」でくすっと笑いがおき、それが最後には涙へと変わっていくと思います。

谷本) 夢を追いかけるけれど身近な人の愛に気づいて帰ってくる。そうしたことを経験した人は多いと思います。監督はいかがですか?

香月) いや、僕はありません(笑)。僕と有川さんとの恋愛の理想形なんでしょうね(笑)。
有川さんは違うと言うかもしれませんが(笑)

 対談の様子
対談の様子

谷本) 若い人が共感するように意識して作ったところはありますか。

香月) DAIGOとの絡みなんかはそうです。でも多分今の若い子も俺たちの時代とそんなに変わってないと思う。10年前、僕は『9-NINE』を作ったとき、初めて若者をテーマにした映画でしたので、渋谷の高校生たちを集めて話を聞いて脚本を作りました。彼らがどう思い、行動するのか聞いたんです。そうしたら実際は結構古いんですよ。「友達のために犠牲なるのっていいですね」と言ったりする。表現の仕方や言葉遣いが変わっているだけで、友情やら親に対する尊敬の気持ちもある。

樋口) 僕が尊敬しているのは父と母です。

香月) 基本的に使う物は変わっても、人間はそんなには変わっていないような気がしますね。一部ではゲームばかりで付き合いが下手なんて言われていますが、昔からそういうタイプはいっぱいいたし。それを事件絡みでマスコミが取り上げているだけだと思いますよ。

谷本) 今回、若い役者さんとのコミュニケーションで違和感はありましたか。

香月) 『9-NINE』に出た若い役者は、みんな普通で、ああ、これなら引き出してやれるなと思った。「お前ら、普通にやった方がいい」と言ったらうまくいった。だから今回も同じような手法をとりました。

樋口) DAIGOさんで、“ウィッシュ”をどうしようかという話は出たんですか(笑)。

香月) ノリで、本人たちにやらした方がいいかなと思って。本人も「言っていいんですか」と聞いてきましたけど。

谷本) 試写会では笑いが起きていました。

香月) 前半は説明を必要とするシーンが多くて、話があまり動きません。河原で香織が新平に告白する後、話はぐっと動いていく。要は前半、新平が動いていないんです。
脚本では新平「……」ばかりですからね。だからあえて笑いを少し入れておくという意図もあったわけです。

樋口) 大事なシーンに“橋”が使われていますが。

香月) 実はサイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」が好きなんですよ。“君が困っていたら僕が君の橋になって助けてあげる”という内容の歌なんですが、橋をうまく使いたくて、そこに二人の関係を橋渡しするという意味をかけました。冒頭シーンで、キャメラが川を溯り二人がいる5年前へと時がバックするのも沈下橋を使って、川を時の流れに喩えました。東京でも、東京タワーをバックに橋を渡っているでしょう。新平の東京の橋はあれです。

谷本) 浮気していると勘違いしているシーンも橋でした。

香月) 僕の場合、何か拠り所がないと演出ってまとまらないんです。何か軸があり、そこから組み立てていく。東京と高知の“橋”の違いは、お客さんに後でジャブのように効いてくると考えてました。「ああ、あの橋のシーンね」とか。
映画に合ういい橋と巡り合ってよかったと思っています。最初に言ったように、東映で青春映画をやるのであれば、どっかでちゃらけてなくて、骨太な所がある映画にしたかった。1800円払って観て、映画観たなって思わせないとね。テレビでも見れるとなったら、テレビの人気シリーズものの映画に負けると思いましたから。そして僕は東映出身なので、東映が作る映画にしたかったんです。
昔の東映ファンはいっぱい居ますから、よく言われます。最近東映っぽい映画ってないよねって。じゃあ“東映らしい”ってどういう映画かを考えながら製作に臨みました。

 君が踊る、夏
映画『君が踊る、夏』


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